お知らせ イベントレポート 建築セミナー2026 Vol.3

2026年09月29日
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イベントレポート 建築セミナー2026 Vol.3

北陸の建築を巡る、1泊2日の旅——建築セミナー2026 Vol.3 見学会レポート

2026年9月4日・5日の2日間、「建築セミナー2026 Vol.3 北陸の建築を巡る見学会」を開催しました。

金沢から福井、そして若狭へ。図書館、研究施設、旅館、博物館など、用途も設計者も異なる8つの建築を巡った1泊2日のツアーです。

建築を実際に歩き、自分の目で見ること。そして、その体験を参加者同士で共有すること。

北陸の建築を巡りながら、建築について学び、人と出会った2日間を振り返ります。

建築を見て、語り、人とつながる——41人で巡った北陸建築ツアー

▲金沢駅から、1泊2日の北陸建築ツアーがスタート。石川から福井、若狭へ、8つの建築を巡った。

小松ウオール工業が主催する「建築セミナー」は、建築に携わる人たちとともに、建築のあり方やこれからの可能性を探求する場として2025年に始まりました。講師から知識や視点を得るだけでなく、参加者同士で刺激や気づきを共有し、交流することも大切にしています。

2026年第3回となった今回は北陸建築ツアー。参加したのは、一般参加者32名、企画委員5名、小松ウオール工業スタッフ4名の計41名。一般参加者の約半数は設計・デザインに携わる一方、建築設計以外のさまざまな分野から参加しました。地域も東京・神奈川を中心に、大阪、長野、静岡、愛知、地元・福井まで広がりました。

出発後のバスでは、企画委員長の佐藤由巳子さんから「建築は実際に見なければ分からない」という話がありました。図面や写真だけでは捉えきれないスケールや光、素材、周囲の風景、人の使い方を、自分の目で見て、歩き、自分なりに判断する。それが今回の見学会の出発点です。

実はこのツアーは、前年に大雪で中止となり、1年越しで実現したもの。開催直前には大雨にも見舞われましたが、当日は天候にも恵まれ、予定していた8つの建築を巡ることができました。
今回訪れた建築の中には、2025年の建築セミナーに登壇いただいた仙田満さん、内藤廣さん、小堀哲夫さんが設計した建築も含まれています。講演で聞いた建築家の考えを、今度は実際の建築を歩きながら確かめることも、今回の見学会の特徴のひとつです。         

同じバスで移動し、建築を一緒に歩き、感想を交わす。通常のセミナーとは異なる、1泊2日の建築セミナーが始まりました。

2日間の行程
DAY 1|9月4日(金)
金沢駅 → 石川県立図書館 → ESHIKOTO → 蕎麦 山や → NICCAイノベーションセンター → 福井市内・懇親会

DAY 2|9月5日(土)
福井駅 → 福井県立図書館 → 福井県立一乗谷朝倉氏遺跡博物館 → 光風湯圃べにや → 福井県年縞博物館 → 若狭三方縄文博物館 → 敦賀駅

DAY1 金沢から福井へ 人を動かし、本との出会いをつくる——石川県立図書館/設計:仙田満+環境デザイン研究所

▲中央の吹き抜けを囲むように、書架や閲覧席が立体的に連なる石川県立図書館

最初に訪れたのは、2022年に開館した石川県立図書館です。到着後、館内スタッフから図書館のコンセプトや空間構成について説明を受けました。

中央には大きな吹き抜けが広がり、その周囲を書架や閲覧席、階段やスロープが立体的につないでいます。歩くたびに視線の高さや風景が変わり、別の階にいる人や、思いがけない本が視界に入ってきます。

設計を手掛けた仙田満さんには、昨年の建築セミナーにも登壇いただきました。仙田さんが長年提唱してきた「遊環構造」の考え方を、今回は実際の建築を歩きながら体験する機会となりました。

▲館内スタッフから図書館のコンセプトについて説明を受ける。「思いもよらない本との出会いや体験」を生み出すことも、新しい図書館の役割として考えられている。

説明後は自由に館内を見学。書架を巡る人、吹き抜けを見渡す人、さまざまな椅子を試す人など、それぞれが自分なりの方法で建築を体験しました。

人が動くことで新しい本や場所に出会う。北陸ツアーは、そんな建築から始まりました。

▲説明後はそれぞれ館内へ。書架や階段が連続し、歩くたびに異なる場所や本が現れる。

道中、小松ウオール工業の新工場へ

石川県立図書館を後にし、次の目的地へ向かう途中には、小松ウオール工業の新工場にも立ち寄りました。竣工したばかりで、これから生産設備が搬入されていく段階の工場を見学しました。普段の建築セミナーとは少し異なる、小松ウオール工業の「ものづくりの現場」に触れる機会となりました。

酒と食、建築から福井の風土に触れる——ESHIKOTO/設計:古谷デザイン建築設計事務所(古谷俊一)ほか

▲九頭竜川と山々を望む土地に広がるESHIKOTO。建築と周囲の風景が連続するように計画されている。

続いて訪れたのは、福井を代表する酒蔵・黒龍酒造を擁する黒龍グループが手掛ける「ESHIKOTO」。日本酒を中心に、食やアート、建築を通して北陸の文化を発信する複合施設です。

現地ではスタッフの案内を受けながら施設を見学。2022年に開業した「酒樂棟」は、九頭竜川を望む高台に建ち、長いテラスや大きな開口を通して、建築の内外に風景が連続していきます。敷地内には福井の笏谷石など、地域に根ざした素材も用いられています。

見学では建築だけでなく、スパークリング日本酒の製造・貯蔵空間なども巡りました。ESHIKOTOという名称には、永平寺町の「永(とこしえ)」を逆から読み、福井の「よいもの」を永く発信していくという思いが込められているといいます。

見学後は、同じ敷地にある隈研吾建築都市設計事務所設計の「蕎麦 山や」へ。ここでは参加者全員で昼食を囲みました。建築を巡るだけでなく、その土地の食を味わいながら参加者同士で言葉を交わす時間も、今回のツアーならではの体験です。

▲「蕎麦 山や」で昼食。参加者同士でテーブルを囲み、交流を深めた。

研究所を、人が出会う場所へ——NICCAイノベーションセンター/設計:小堀哲夫建築設計事務所

▲2017年に開設されたNICCAイノベーションセンター。研究する場所であると同時に、人が出会い、新しい発想を生み出す場所として計画された。

初日最後の見学先は、日華化学の研究開発拠点「NICCAイノベーションセンター」。設計を手掛けた小堀哲夫さんには、2025年の建築セミナーにも登壇いただきました。施設のコンセプトは、多様な人が集まり交流する「BAZAAR:創造の市場」です。

計画にあたっては、老朽化した研究所を単に建て替えるのではなく、社員も参加しながら、これからの研究環境や働き方そのものが考えられました。館内では、ガラス張りの研究室と、人が集まる「コモン」と呼ばれる空間が連続し、異なる部署の活動や人の姿が自然と視界に入ります。

▲スタッフの案内で館内を見学。1階吹き抜けのガーデンスクエア。

竣工から約9年。実際に働く人の道具や掲示物が加わり、建築が日々使われながら変化している様子も印象的でした。

閉じた研究所ではなく、人と人の偶然の出会いや対話を生み出し、それを新しい研究や発想につなげていく。建築が働き方や人の関係をどう変えられるのかを、実際に使われている空間から学ぶ見学となりました。

▲日華化学のスタッフから施設の紹介と見学者から質疑応答が行われた。

DAY2 福井から若狭へ 庭園の中に広がる、静かな図書館——福井県立図書館/設計:槇総合計画事務所(槇文彦)

▲福井県立図書館外観

2日目の最初に訪れたのは、2003年に開館した福井県立図書館。槇総合計画事務所が設計した、緑豊かな環境の中に建つ図書館です。

大きな特徴は、開架閲覧室がひとつのフロアに広がる水平的な空間構成。大きなガラス面の向こうには庭園が広がり、閲覧席からも緑や空の風景を望むことができます。

前日に訪れた石川県立図書館が、吹き抜けを中心に上下へ巡りながら本や場所との出会いをつくっていたのに対し、こちらは庭園へと視線が抜ける、静かで伸びやかな空間。同じ「図書館」という用途でも、建築によってまったく異なる過ごし方が生まれることを体感しました。

▲読書テラス(中庭)から。大きなガラス面を介して庭園と室内が緩やかにつながる。

土地に流れる時間を受け止める——福井県立一乗谷朝倉氏遺跡博物館/設計:内藤廣・センボー設計共同体

▲一乗谷の山並みを背景に建つ福井県立一乗谷朝倉氏遺跡博物館。周囲の風景に呼応するように、低く大きな切妻屋根が架けられている。

続いて訪れたのは、2022年に開館した福井県立一乗谷朝倉氏遺跡博物館。設計を手掛けたのは、昨年の建築セミナーにも登壇いただいた建築家・内藤廣さんです。

この建築を特徴づけているのが、計画中に敷地から発見された石敷遺構です。建設に先立つ発掘調査で重要な遺構が見つかったことから、計画を変更し、遺構を現地に保存したまま展示する博物館がつくられました。

▲建設予定地から発見された石敷遺構。発掘された場所にそのまま保存され、建築の中に取り込まれている。

館内を進むと、発掘された遺構から、朝倉氏の歴史や出土品、そして原寸で再現された朝倉館へと展示が続きます。新しい建築の中を歩きながら、約500年前の一乗谷の暮らしや風景へと時間を遡っていくような体験です。

土地に残された歴史や、そこに存在する時間の流れを受け止めながら建築をつくる。内藤さんの建築を実際に歩くことで、建築と場所、そして時間の関係を考える機会となりました。

▲館内に原寸で再現された朝倉館。発掘された遺構や出土品をもとに、戦国大名の館の様子を立体的に伝える。

記憶を受け継ぎ、旅館をつくり直す——光風湯圃べにや/設計:小堀哲夫建築設計事務所

▲あわら温泉に佇む「光風湯圃べにや」。光や風、庭との関係を大切にしながら、火災以前の旅館の記憶を新しい建築へとつないでいる。

次に訪れたのは、あわら温泉の老舗旅館「光風湯圃べにや」。1884年の創業以来、長い歴史を重ねてきましたが、2018年の火災によって建物を焼失。小堀哲夫さんの設計により再建され、2021年に新たな「べにや」として開業しました。現地では、奥村隆司社長をはじめ、旅館の方々から火災から再建に至るまでの経緯を伺いました。

▲奥村隆司社長と、女将の奥村智代さんから、火災から再建に至るまでの経緯や、新しいべにやに込めた考えを伺った。

再建で目指したのは、失われた建物をそのまま復元することではありませんでした。かつてのべにやが持っていた光や風、庭との関係、長い廊下や軒によって生まれる体験を受け継ぎながら、17の客室と庭がほどよい距離感で連なる、新しい旅館がつくられています。

館内を歩くと、客室ごとに異なる庭の見え方や光の入り方があり、旧旅館から受け継いだ建具や調度品も随所に残されています。スタッフの案内を受けながら、建築だけでなく、再建後も続く旅館の営みそのものを見学しました。

▲庭と緩やかにつながる客室。

そして、べにやの再建には「建物をどうつくるか」だけでなく、「これからのべにやをどうつくるか」を考えるワークショップも取り入れられました。設計中には、外部の専門家や小堀哲夫建築設計事務所らとともに、これからのべにやについて考えるワークショップが行われました。さらに竣工後も、2025年の建築セミナーに登壇した劇団バンビによる社員ワークショップが行われるなど、建築完成後も「べにやらしさ」を考え続ける取り組みが続いています。

建築を完成させることをゴールにせず、そこで働く人や地域との関係を育て続ける。べにやの再建からは、建築がその先の営みを支えていく姿を見ることができました。

7万年の時間から縄文へ——福井県年縞博物館・若狭三方縄文博物館 福井県年縞博物館/設計:内藤廣建築設計事務所 若狭三方縄文博物館/設計:横内敏人建築設計事務所

▲福井県年縞博物館。水月湖から採取された約7万年分の年縞を展示するため、細長い建築がつくられている。

2日間のツアーもいよいよ終盤へ。続いて訪れたのは、一乗谷朝倉氏遺跡博物館と同じく、内藤廣さんが設計した福井県年縞博物館です。

「年縞」とは、湖底に一年ごとに積み重なった堆積物がつくる縞模様のこと。水月湖の湖底には約7万年にわたる年縞が残されており、過去の年代を測る世界的な「ものさし」として研究に用いられています。

▲博物館スタッフの詳しい解説を聞きながら年縞を見学。一年ごとに刻まれた縞から、過去の環境や人々の営みを読み解いていく。

館内では、スタッフの案内を受けながら約45mに及ぶ実物の年縞を見学しました。一本一本の縞を数えるだけでなく、含まれる花粉や火山灰などを分析することで、その時代の気候や自然環境、人間の活動まで読み解くことができます。参加者も展示を覗き込みながら、詳細な説明に耳を傾けました。

そして建築そのものも、この約45mの年縞展示から形づくられています。細長い展示空間に年縞が一直線に並び、その横を歩くことで、約7万年という途方もない時間を「距離」として体験することができます。福井県産材を用いた木の屋根と鉄骨、コンクリートを組み合わせた構成にも、内藤さんらしい素材と構造の考え方を見ることができました。

▲約45mにわたって続く水月湖の年縞。展示に沿って歩くことで、約7万年という時間が身体的な距離へと置き換えられる。 その後、隣接す

その後、隣接する若狭三方縄文博物館へ。横内敏人さんが設計した、屋上を緑で覆う大地と一体になったような建築です。ここでは自由見学の時間をとり、鳥浜貝塚から出土した遺物などを通して、縄文時代の人々の暮らしに触れました。

▲屋上を緑で覆い、大地から建築が立ち上がるような姿が特徴の若狭三方縄文博物館。

約7万年の地球の時間から、縄文時代を生きた人々の時間へ。異なるスケールの「時間」に触れながら、北陸の建築を巡った1泊2日の見学は幕を閉じました。

「見る」だけではない、1泊2日の建築セミナー

▲一つの建築を見終えると、また同じバスで次の建築へ。移動をともにする時間も、1泊2日の建築セミナーを形づくった。

今回のツアーをつくっていたのは、巡った8つの建築だけではありません。

参加者全員が同じバスに乗り、2日間をかけて北陸を移動する。一つの建築を見終えるとバスへ戻り、また次の建築へ。その道中では、今見てきた建築について感想を交わしたり、それぞれの仕事について話したりする姿が、自然と生まれていました。

初日の夜には、福井市内で懇親会も開催。全国各地から集まった参加者が、昼間に見てきた建築の感想や、それぞれの仕事について語り合いました。

建築を一緒に見て、歩いて、感じたことを語り合う。その繰り返しの中で、初めは知らなかった人同士にも少しずつ会話が生まれていく。建築を見ることが、人と人が出会うきっかけになる。それもまた、今回の見学会で生まれた大切な体験のひとつでした。

金沢から福井、そして若狭へ。8つの建築を巡った1泊2日の旅は、建築について学ぶだけでなく、建築を通して人と出会い、新しい視点を持ち帰る時間となりました。

建築を見て、語り、人とつながる。

建築セミナーではこれからも、そんな体験を皆さんとともにつくっていきます。

建築セミナー企画委員 鏡 晋吾

開催概要

建築セミナー2026 Vol.3
「北陸の建築を巡る見学会」
日 時:2026年9月4日(金)-5日(土)
見学先:石川県立図書館、黒龍酒造 ESHIKOTO、NICCAイノベーションセンター、
    福井県立図書館、一乗谷朝倉氏遺跡博物館、光風湯圃べにや、福井県年縞博物館、若狭三方縄文博物館
主 催:小松ウオール工業株式会社